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永青文庫には三百余点の白隠作品が収められている。質量共にこれだけのコレクションは他に類がない。
すべて、祖父護立が魅了され蒐集したものである。子供の頃から身体が弱かった祖父は、白隠の養生書『夜船閑話』を勧められ、これに感銘を受けたのが機縁で健康も回復し、白隠に親しみと敬慕の気持ちを抱くようになった。
以来、白隠ゆかりの寺や村を訪ねては書画を求め歩き、白隠の奥の深さと強さに益々引かれていったようだ。
世間一般、まだ白隠にさほど関心をもたない明治、大正ぐらいのことだから、やはり、目利きだったといってよいだろう。
祖父護立は、白隠の書について“決してうまくないかもしれないが、実にのんびりと書いて有り、深く落ち着いた力があるので、いい知れぬ面白さがある”といっている。永青文庫にはさまざまな墨蹟があるが、祖父はその中でも特に白隠と仙涯が好きで、毎晩食事の後、居間の白隠と仙涯の二幅をかけ替えるのが日課であった。
祖父に生命力を与えてくれたこれらの作品群は、1959年1月、ウィーンを皮切りに欧州諸国を1年以上にわたり巡回し、ヨーロッパの人々に禅の精神を伝えたばかりか、禅画を一種のモダンアートとして感じ取る自由さを私たち日本人にも改めて知らしめてくれた。この度選んだ12点は永青文庫の選りすぐりであるが、白隠の書に伸びやかな筆さばきは見るものの心を解き放ってくれるような感じがする。また、大書されたものの迫力は白隠その人の己事究明を見るかの如く厳しいものを感じさせる。もちろん市井の人々に親しまれた白隠の書画は、決して見るものを拒むことはないが。
ともあれ、なにものにもとらわれない、自由な筆の動きと滋味あふれる墨の色は、必ずや新しい多くの白隠ファンを生み出すことは間違いない。
●細川家と永青文庫永青文庫は、今は遠き武蔵野の面影を止める目白台の一画に、江戸時代から戦後にかけて所在した広大な細川家の屋敷跡の一隅にあります。 |
永青文庫外観 |
●細川護煕氏が選定・監修
白隠に精通した永青文庫理事長・細川護煕氏が選定し、禅解説を花園大学禅文化研究所所長・西村恵信氏、作品解説を早稲田大学助教授・浅井京子氏が担当しました。
●永青文庫理事長 細川護煕氏(ほそかわもりひろ)
1938年生まれ。細川家十八代目当主。1963年上智大学法学部卒業後、朝日新聞記者を経て、参議院議員となる。
1992年日本新党を結成、翌93年に第七十九代内閣総理大臣を務める。
1998年衆議院議員を辞職後、財団法人永青文庫理事長に就任。著書に『鄙の論理』(共著/光文社)『不東庵日常』(小学館)ほか多数。
